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デイノコッカス属のバクテリア(Deinococcus radiodurans(デイノコッカス・ラディオデュランス))は、放射線に最も強い微生物としてギネスブックに認定されています。
Deinococcus radiodurans
デイノコッカス・ラディオデュランスは、1956年にオレゴン農業試験場で発見されました。当時、食品保存の研究のために、牛肉の缶詰にガンマ線を照射して滅菌する実験が行なわれていましたが、その缶詰を保存していたところ、いくつか腐って膨らんでしまったため、その中から強い放射線に耐えるバクテリア(デイノコッカス・ラディオデュランス)が単離されたのです。
10Gy(グレイ)の放射線でヒトを、60Gyの放射線で大腸菌を殺すことができます。しかし、デイノコッカス・ラディオデュランスは5000Gyを浴びても死滅せず、1万5000Gyでも37%は生き残ります。また、高温、低温、乾燥、低圧力、酸など複数の極限環境で生き延びることができます。
さらにそのデイノコッカス・ラディオデュランスよりも放射線耐性のあるバクテリアが発見されています。Halobacterium NRC-1と名付けられたバクテリアは約1万8000グレイの放射線に耐えることができます。地球上の微生物はまだ数%しか分かっていませんので、これからもさらに放射線耐性のある微生物が発見されるでしょう。
Halobacterium NRC-1
微生物こそは地球で最も強いのです。地球が現在のような人類にとって生存不可能な荒々しい環境であった時代にもたくましく増殖していました。生命の起源が微生物にあったことも頷けます。
このような放射線耐性の生存能力の鍵は、遺伝子(DNA)の複製能力にあります。遺伝子(DNA)や遺伝子のある染色体(ゲノム)が損傷すると、別の遺伝子や染色体から必要な部位を複製できます。
放線菌門やプロテオバクテリア、ユーリ古細菌の中にも、1万グレイ程度の放射線に抵抗性を示すものがそれぞれ存在します。真核生物の中にも、菌類など比較的強い放射線に対して抵抗性を示すものがあります。
これらの微生物はいずれも地球に生命が誕生した頃のキープレイヤーであり、あらゆる植物や動物と共生することで進化の原動力となってきました。植物や動物は、微生物に栄養を与える一方で、微生物からファイトケミカルや微量元素、ビタミンなどの有用物質を与えてもらっています。
また私たちの祖先が有害な宇宙放射線などに耐えられるようになったのは、放射線耐性微生物の持っている放射線耐性遺伝子(DNA修復酵素、フリーラジカル補足物質を産生する)を共生の過程で生物の遺伝子に組み込んだと推測されます。
現在は、ウイルスがその媒介になっていることが明らかになってきました。
今こそ微生物に思いをはせ、微生物を活性化させる知恵こそが人類の蛮行によって招来された深刻な地球汚染を救うことになるでしょう。