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「カクテル効果」と放射能対策

(BABジャパン 月刊『秘伝』8月号(2011)掲載より転載)

取材・文◎長沼敬憲

一つの事象にとらわれず、生命全体を俯瞰する視野を持つ

東日本大震災が勃発した3月以来、この「生命栄養学」の連載でも原発事故による放射線被曝の問題について様々な角度から考察してきた。 低量の放射線が長期にわたり飛散している状況は過去の原発事故には見られなかったことであり、人体への影響については専門家の間でも意見が大きく分かれている。「いったい何が正しいのか?」と混乱している人も多いだろう。

ただ、ここではこうした「何が正しいのか?」という議論には与しない。理由は2つある。一つはこれまでの連載で述べてきたように、「体の内側から生命力を高める」ということに主眼を置くべきだと考えるからだ。端的に言えば、「本当の答えはあなたの体が知っている」ということだ。食べ物の問題も、もちろんここに関与してくる。生命力が低下したままの状況では、放射線の影響があろうがなかろうが、将来の健康がおぼつくはずもない。どちらにせよ、私たちはもっと質的に強くなるべきなのだ。

もう一つは、これが意外と見落とされてしまっているが、「リスクは複合的に作用する」という点だ。

放射線だけが体に影響を及ぼしているわけではない。生きている限り、私たちは外部に存在する様々な異物と接触している。腸内の善玉菌のように体にプラスに作用するケースもあり、すべてを「悪」と見なせるわけではないが、それでも体に有害な異物はいくらでも存在している(下記の図『「カクテル効果」から病気の発症をとらえ直す』を参照)。個々の有害性を問題にしているだけでは、体へのトータルな影響までは見えてこないだろう。

つまり、自分がいま置かれている状況(環境)を俯瞰して、「自分の生命力がどの程度のレベルにあるか?」を想起してみる。そうした視点のなかで、「放射能の人体への影響」も初めて浮かび上がってくる。これまでの連載で取り上げてきた食材などの活用法も、ここで活きてくるだろう。

今回は、身体論をテーマにした『グズな大脳思考・デキる内臓思考』の著者であり、こうした生命全体を俯瞰する視点に立った医療(=総合医療)に取り組んでいる崎谷博征氏(崎谷研究所所長)への取材をもとに、一連の放射線被曝の問題、さらには食べること、生きることの意味について改めて問い直してみたいと思う。

「カクテル効果」の視点から放射線の被曝をとらえ直す

まず、リスクの複合作用という点について認識を深めるため、「カクテル効果」と呼ばれる概念から解説していくことにしよう。

カクテル効果の図例えば、Aという毒性の強い物質があったとする。ただ「猛毒」ではないため、このAが微量に含まれた水を飲んだとしても「ただちに健康への影響はない」。同様に、B、C、D……とそれぞれ強い毒性を持った物質もあったとしよう。こちらもある量を超えない限り、摂取しても人体へのダメージはほとんどない。

では、こうした毒素が混ざった水をカクテルグラスに少しずつ注いでいったらどうなるだろうか? 個々の毒性が弱かったとしても、カクテル全体でとらえた場合、毒性は相対的に高くなっている可能性がある。あるいは、個々が混ざり合うことで化学変化を起こし、これまで見られなかった新たな毒性が生じるかもしれない。これらは、混ざり合った個々の毒の量によって微妙に変化するほか、このカクテルを飲む人の健康状態にも左右される。毒性の強いものを摂取してもまったく平気な人がいる一方で、微量でもひどいダメージを蒙ってしまう人もいるのはそのためだ。同じ環境下で同じ食事や運動をしていたとしても、個人差が生じることになるわけだ。

「現代医療がなかなか病気を治せないでいるのは、こうしたリスクの複合作用=カクテル効果を考慮せず、病気の原因を『Aという原因によってBという病気が起こる』といった直線的な発想でとらえようとするからです。このAという原因を取り除くために医薬品が用いられたり、手術が行われたりするわけですが、病気や体調不良は多くのリスクの複合作用の中で発生するものです。こんな単純なやり方では、ほとんどの病気に対処できないことがわかるでしょう。私の専門の一つである関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)のような病気が難病に指定されているのも、従来の直線的な治療法=対症療法では完全にお手上げだからです」(崎谷氏)

もちろん、ガンについても放射線の被曝という「単一の原因」で生じるわけではない。「様々なリスクの複合=カクテル効果によって生じうる病気の一つ」という認識がなければ、いくら被曝を避けたとしてもガンの予防にはつながらないだろう。放射線に対する「不安」や「恐怖」が視野を狭めてしまっているとしたら、まずはこの点から改める必要がある。

「原発事故から4ヶ月が過ぎた現在、放射線を直接浴びる『外部被曝』の心配はなくなってきましたが、放射性物質を体内に取り込む『内部被曝』については引き続き注意が必要でしょう。原発から放出された放射性物質は海や地下水に流れ込んでいますから、飲料水や魚介類などは内部被曝のリスク要因と言えますが、それが実際に体にどんなダメージを及ぼすのか? この点については、カクテル効果の度合いによります。また、その人の体の耐性にも左右されるでしょう。軽度の放射線を日常的に被曝し続ける状況は、人によってはかえって体の耐性を高める面もあるかもしれません。しかし、カクテル効果や内部被ばくの実態を考えると低線量放射線でもリスクは伴います」(崎谷氏)

要するに、@放射性物質だけにとらわれず、「カクテル全体」に目を向け個々の毒性を取り除いていく、A自分自身の体の耐性を高めていく……こうした努力をすることが有効な対策であるということだ。着実に実行すれば健康レベルが高まっていくため、病気そのものにかかりにくくなる。被曝のダメージが明確に捉えにくい状況にあるいま、まずはこうした「全体的な視野に立つ」ことが重要だろう。

「放射性物質といっても決して特別なものではなく、細胞内でフリーラジカル(活性酸素)を生み出してDNAを傷つけるという点では、他の有害物質と同じように作用します。放射線は体全体にランダムに作用します。私たちの体内で最も多い成分は水分です。水分に放射線があたると、ヒドロキシラジカルという最も反応性の高いフリーラジカルを産生するのです。フリーラジカルは、食生活や生活習慣を通じてもつねに生み出されるわけですから、酸化ストレスを防ぐこと自体に目を向ける必要があることがわかるでしょう。一人一人の体に備わった抗酸化作用よって、酸化ストレスに耐えられる総量はある程度決まってきます。日常の中でその量を超えないように自己防御しつつ、これからお話ししていく対処法で酸化に対する耐性を高めるように心がけてください。それが放射線の被曝に対する防御法にもつながっていくはずです」(崎谷氏)

ミトコンドリアの活性化が病気の引き金
「慢性炎症」を防ぐ!

崎谷氏はもともと脳神経外科の専門医であり、関西を拠点に長く医療活動に従事してきた。その氏が都市生活から距離を置き、10年ほど前から熊本の地で医薬品を極力用いず、患者の自然治癒力を引き出す「総合医療」に精力的に取り組んでいる。

「現代医学の認識とは大きく異なりますが、私は『病気の根本原因は様々なリスクの複合作用によって引き起こされる慢性炎症にある』と確信しています。つまり、ガンも、関節リウマチのような難病も、アレルギーも、うつ病のような精神疾患も、私からすれば慢性炎症性疾患の一症状に他なりません。炎症を受けた部位が異なるだけで、どの病気も同じ原因によって生じるわけですから、慢性炎症を軽減し、その拡大を抑えることが、すべての病気に共通した治療法ということになります。私が食事や生活習慣の改善を患者さんに強くすすめるのは、この炎症を抑える対処法としてきわめて重要であるからです」(崎谷氏)

生命栄養学・実践編もちろん、すべての病気に対処できるということは、日常的な体調管理、病気予防などにも役立てられることを意味する。詳しくは右記の「生命栄養学・実践編!」で紹介しているが、大事なのは毎日の習慣としてこれらをコツコツと積み重ねていくということだ。先のカクテル効果ではないが、個々の効果が僅かなものであったとしても複合することで徐々に健康状態が底上げされていく。

放射性物質を含め、上記で挙げた有害物質を体に取り入れないように努力することも大事なことだが、そこだけで囚われるとカクテルという「全体」が見失われてしまう。直接目に見えないものが多いので、「避ける」「遠ざける」という行為だけでは実感につながりにくく、ネガティブな気持ちだけが蓄積されやすくなる。

大事なのは、体の変化を肌で感じとるようになることだ。そのためには、やはり日常の習慣を改善させていくことが一番だ。ここでは、12の改善ポイントの根底にある「ミトコンドリアの活性」と「ウイルス・細菌による感染の防止」の重要性について、崎谷氏の言葉に耳を傾けてみよう。

「私がウオーキングのような適度な有酸素運動や朝一番の日光浴をおすすめしているのは、酸素補給や太陽の光によって細胞内のエネルギー製造器官であるミトコンドリアの増殖がうながされ、その働きを活性化されるからです。ただ、激しい運動は逆にフリーラジカルを生み出し、酸化ストレスの温床になるため逆効果です。忙しく働いている人は生活リズム自体を見直し、全体的にスローダウンさせることを心がけたほうが、ミトコンドリア活性につながっていくでしょう。

また、ウイルスや細菌の感染については、のどの扁桃組織で働く白血球(免疫細胞)にダメージを与えてしまう恐れがあります。なかでも睡眠中は口もとの筋肉がゆるむため口呼吸になりやすく、眠っている間に大量のウイルスや細菌がのどに直接侵入してきます。こうした状態が毎晩のように続けば、白血球の手には負えなくなり、処理しきれなかったウイルスや細菌が逆に全身の細胞にばら撒かれてしまうことになります。『睡眠中の口呼吸が万病のもと』になるのです。こうした口呼吸の弊害を防ぐには、唇をテープで留めてから就寝することが一番です。日常でも口元を無闇にゆるめず、鼻呼吸を意識して行うように心がけるといいでしょう」(崎谷氏)

ミトコンドリアの働きについてはこの連載でも繰り返し取り上げてきたが、崎谷説のポイントは「ミトコンドリアの機能低下が慢性炎症の原因につながる」ととらえている点だろう。つまり、ここに挙げたような生活習慣の改善によってミトコンドリアの働きを活性化できれば、病気の引き金となる慢性炎症のリスクも低下させることができる。両者の関係は合わせ鏡のようなものだと考えていいかもしれない。

「なかでも重要なのは、白血球の内部で働いているミトコンドリアの存在です。白血球はウイルスや細菌から身を守るだけでなく、ガン細胞や老化した細胞、機能低下して使い物にならなくなった細胞の処理も行ってくれるため、その働きが活発になれば全身の新陳代謝がうながされやすくなります。つまり、白血球のミトコンドリアの状態が、健康の要である新陳代謝のカギを握っているのです。この点をよく理解し、生活習慣の改善に努めていくといいでしょう」(崎谷氏)

「平均点」を上げていくことで
健康レベルの底上げを図る

こうした生活習慣の改善とともに重要なのが、毎日の食事の内容だ。最後にこの点についても、崎谷氏の見解を伺ってみることにしよう。

「すぐに実行できるものとしては、一日の食事の総カロリーを抑える、つまり食べすぎを控えることが挙げられるでしょう。食事内容について考える前に、まずは「食べる量を減らす」ことを心がけてください。カロリーを制限することで、炎症をうながすサイトカインという物質の生成が抑えられやすくなるため、それだけでも十分に慢性炎症のリスクは軽減していくはずです。また、『冷たいものを極力口にしない』ということも、比較的容易に実行できるでしょう。ミトコンドリアは活動エネルギーとともに熱も生み出しているため、冷えたものを摂ると熱を高めるほうに働く場面が増え、その分、エネルギー製造は低下してしまいます。水分補給も含め、体温以上に温めてから飲食するようにすると、こうしたミトコンドリアの機能低下を防ぎやすくなります」(崎谷氏)

この2点と並行して、「肉類の摂取を減らす」「新鮮な野菜を丸ごといただく」「発酵食品を積極的に摂る」

……以上の点についても徐々に実行していくといいだろう。崎谷氏によると、こうした食事の改善も慢性炎症を抑え、ミトコンドリアを活性化させることにつながっていくという。有害物質の解毒もうながされるはずだ。

「肉類の摂取については、ヒトに近い動物の蛋白質が取り込まれることで体の組織・器官を構成している蛋白質と干渉し合うため、免疫機能の暴走によって生じる自己免疫疾患やアレルギーなどの原因になります。こうした症状が現れなかったとしても、慢性炎症自体は進行しやすくなるため、体のことを考えれば摂取を減らしていったほうがいいでしょう。動物性でも植物性でも、蛋白質が腸でアミノ酸に分解されて吸収される点は変わりありません。豆類などから植物性の蛋白質を摂取するほうが体の負担は少なく、慢性炎症も発生しにくくなります。

野菜の摂取については、無肥料・無農薬で作られた作物をなるべく新鮮な状態で、丸ごといただくことが理想です。こうした野菜にはビタミンやミネラルのほか、ファイトケミカルという植物の活性成分が豊富に含まれます。安易にサプリメントに頼る前に、まずは質のいい野菜を手に入れる方法を見つけてください。それが難しいという人は、天然の味噌、納豆などを中心に発酵食品の摂取を増やすといいでしょう。体内の微生物の働きを活性化させることで、ビフィズス菌のような善玉菌が増え、ミトコンドリアのエネルギー産生に必要なビタミンなどの栄養素が生成されやすくなります。特に味噌は放射性物質を分解させる働きがあるので、良質なものを積極的に摂ることをおすすめします」(崎谷氏)

こうした食事法も、これまで連載で述べてきた内容と重ねる面が多いが、ここで強調しておきたいのは、一つ一つを積み重ねていくことで「健康レベルの底上げを図る」という点だ。全体で平均点を上げておけば、有害物質に対する耐性もアップし、少々のことで体調も崩さなくなる。逆に疲れやすく、元気が出ない状態が続くようならば、ミトコンドリアが十分に働いていないことが考えられる。自分の生活全体を見直し、この平均点を上げていく努力をすべきだろう。

個人差があるので、あまり努力しなくても元気でいられる人もいれば、しっかり自己管理しないと及第点を確保できない人もいるのが現実だが、自分自身の体に聞く習慣をつけなければ「答え」は見つからない。ここに挙げたポイントを頑なに守ることばかり考えず、これらをヒントにしながら「自分だけの答え」を見出していって欲しい。そうやって自己管理ができるようになれば、放射線被曝の問題に対しても冷静に受け止められるようになり、情報に徒に踊らされることはなくなっていくはずだ。

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